凡人日日是好日

僕は普通の人である。

僕とカープ。

今日からプロ野球2019年シーズンが開幕する。

僕はプロ野球が大好きだ。広島出身なので、一族もれなくカープファンだ。

最近は熱烈なカープファンが急増したので、どれだけファンか?など居酒屋で比べている人達も目にするが、特に主張するでもない僕は、静かに見守っている。

僕は子供の頃、大して野球に興味が無かった。

カープの勝利よりも戦隊ヒーローの勝利を願う普通の子供で、父が一喜一憂するのを不思議に見ていた。

小学生のある日、家族で夕食を食べていると、父と高校生の兄が野球の話で場を盛り上げて、最後に「今週末から少年野球をがんばれ」と言われた。

いきなりの強硬ドラフト指名だ。

本当に興味が無かったが、同級生もチームにいたので、行ってみようかな。程度の軽い気持ちで参加したのは覚えている。

しかし、昭和も終わりかけの当時は少年野球も根性論で、見た目が恐いコーチに怒鳴られ、罵られながら唯一の休日である日曜日を失った。

当時のプロ野球選手は、パンチパーマ、金のネックレス、セカンドバックという3種の神器で、ほとんどヤクザと同じ出で立ちだった。

恐いコーチも同じ格好。ついでに父も同じ。

「ああ、野球ってそういうことか」

と、幼い僕は緩やかに野球を勘違いしていった。

結局、少年野球は足のケガで辞めたが、勘違いしながらも野球に興味が湧いた僕は、カープ少年となり、野球中継を見るようになっていた。

それなりの距離感で長く野球に関心があったのは、子供の頃にもらった「炎のストッパー 津田選手のサインボール」のおかげだと思う。

そもそも僕はコレクターのように何かを集めたりするタイプではない。

風の谷のナウシカ 永久保存版」と自分で書いてシールを貼ったビデオテープに、「トゥナイト」という、ちょっとHな深夜番組をうっかり上書きしてまうほど、物に執着しない少年だったので、サインボールは唯一の宝物だと思う。

ちなみに「風の谷のナウシカ」だと思って、ビデオを友達に貸したら、真面目な友達が性に目覚める一端を担ってしまった。

最近は公認のユニフォームやシャツを着ている人が多い。というか、着ていない人があまりいない。着ていないとちょっと疎外感を感じるほどに。

以前、日曜日に横浜スタジアムで応援した時、関東のカープファンは熱狂的で、みんな赤いユニフォームや限定のシャツを着て応援していた。

そこに普通のTシャツ、サンダルスタイルの僕が現れると、半径5mくらいは不穏な空気を滲ませた。「この人はカープファンなのだろうか?」と。

20分くらいすると、痺れを切らしたとなりのおじさんが

カープファンなの?」

と確認してきたので

「そうです。」

と回答したら、ユニフォームとか着ていないのに?みたいな空気になった。

察した僕は「広島出身なので」と追加情報を提供し、出身高校も追加した。

この出身高校は効いた。僕の母校は野球強豪校なのだ。

雰囲気は一変し、おじさんや、僕の周辺の関東カープファンが

「やはり本場の人は違う」とか「生活の一部がカープということだね」など

私服で普通に現れた理由を作られ、となりのおじさんからビールまで奢ってもらった。

「本場の方から見てどうですか?最近は」

など聞かれ、ちょっと偉そうに喋ってみたら

「いやぁ、素晴らしい。良かった。本場の強豪校出身の方に会えるとは嬉しい」

とおじさんは喜んでいた。

僕は言えなかった。「テニス部ですけど」の一言が。